広島地方裁判所尾道支部 平成8年(ワ)14号 判決 1998年9月02日
原告 国
代理人 内藤裕之 原田秀利 ほか四名
被告 奥浪良之
主文
一 被告は、原告に対し、原告が別紙第一物件目録一及び二記載の各建物につき、別紙「工事の概要」の〔工事方法〕一及び二記載の方法により建物の解体・撤去及び補修工事を行うに当たり、同概要の〔工事日程及び内容〕記載の工事期間中、同工事のため別紙第二物件目録二記載の土地及び同目録一記載の土地のうち、別紙図面四記載のA、B、C、D及びAの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分を使用すること並びに別紙第一物件目録二記載の建物のうち、別紙工事方法図面一の<9><10><11><12><13><15><14><6><5>及び<9>の各点を順次直線で結んだ範囲の屋根を使用すること(屋根瓦の一時撤去を含む)を承諾せよ。
二 被告は、原告が前項の解体・撤去及び補修工事を行うことを妨害してはならない。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一請求
一 原告
主文第一ないし三項同旨の判決。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
(請求の原因)
一 土地建物の所有関係
1 原告は、別紙第一物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という)及び別紙第二物件目録三記載の土地(以下「本件三土地」という)を所有している。
右所有権取得の経緯は、次のとおりである。
本件建物は、もと被告、訴外奥浪光子、同奥浪加代子及び同奥浪耕一の共有であり、また、本件三土地は、被告の所有であったが、原告は、一般国道二号改築工事(三原バイパス)並びにこれに伴う市道及び砂防設備付替工事用地として取得するため、土地収用法に基づき広島県収用委員会に対し、本件三土地及び本件建物の裁決申請及び明渡裁決の申立てを行い、平成六年四月二六日付けで権利取得及び明渡裁決(権利取得時期を同年五月三一日、明渡期限を同年七月三一日とする)を得、同年五月三一日、本件三土地及び本件建物の所有権を取得した。
その後、被告が明渡義務を履行しないので、原告は、平成六年九月二九日、広島県知事に対して土地収用法一〇二条の二第二項に基づき行政代執行申請を行い、同年一一月三〇日、行政代執行を実施した広島県知事から、本件三土地及び本件建物の引渡を受けた。
なお、本件建物は、三原市西野町二七五一番五(平成五年四月二〇日付け分筆登記以前のもの)の一筆の土地を敷地としていたが、この土地について平成五年二月二三日の収用手続開始決定に伴い、同年四月二〇日付けで収用地(起業地)である本件三土地と非収用地(起業地外)である別紙第二物件目録二記載の土地(以下「本件二土地」という)との二筆の土地に分筆登記されたため、両土地の上に存することとなったものである。
2 被告は、別紙第一物件目録二記載の建物(以下「被告建物」という)、別紙第二物件目録一記載の土地(以下「本件一土地」という)及び本件二土地を所有している。
二 右各物件の位置関係
本件建物が本件二及び三土地の両土地に跨がって存在すること及び本件建物が被告建物の西側に隣接していること等、その位置関係は、別紙図面一ないし三のとおりである。
三 解体等の工事
原告は、本件建物を解体・撤去したいと考えているが、本件建物と被告建物がいわゆる長屋形式の建物で連続した構造になっているため、本件建物の解体・撤去には、特別の配慮が必要となる。
その工事方法と日程及び内容の概要は、別紙「工事の概要」記載のとおりである(以下「本体工事」という)。
四 本件工事のための被告物件の使用等
1 必要性
本件工事を実施するためには、その工法上、やむを得ず本件二土地及び本件一土地のうち、別紙図面四記載のA、B、C、D及びAの各点を順次直線で結んだ範囲の部分(以下、まとめて「本件土地部分」という)を使用するとともに、本件一土地上に存する被告建物のうち、別紙工事方法図面一の<9><10><11><12><13><15><14><6><5>及び<9>の各点を順次直線で結んだ範囲の屋根(以下「本件屋根部分」という)に登り、更に屋根瓦の一部を一時撤去するなど、右屋根部分を使用せざるを得ない。
2 根拠
ア 本件土地部分の使用について、民法二〇九条一項本文
イ 本件屋根部分の使用(右屋根の瓦の一部を一時撤去することを含む)について、民法二〇九条一項本文の類推適用
五 被告の対応
1 原告は、被告に対し、本件工事のため本件土地部分への立ち入り及び使用の承諾を求めたが、これを拒否している(ちなみに、被告は、訴外広島県収用委員会が行った権利取得及び明渡裁決を不服として広島地方裁判所に対し、右裁決取消を求める訴え(同裁判所平成六年(行ウ)第一七号事件)を提起している)。
2 また、被告は、本件工事に対して妨害行為にでる可能性は高い。
六 よって、原告は、請求の趣旨のとおりの判決を求める。
(被告の答弁及び主張)
一 答弁
請求原因一、1の事実のうち、行政代執行がなされたことは、認める。
同一、2の事実は、認める。
同三の事実は、知らない。
同四の1(必要性)及び2(根拠)は、争う。
二 主張
本件建物の敷地の一部は、本件二土地にかかっており、原告は、右土地を無断で使用しているものである。また、本件建物は、長屋の一部であり、既にかなり老朽化していて、残る被告建物も本件工事に耐えない。まず、補修費用を支払ってからにすべきである。
(被告の主張に対する原告の答弁)
被告主張の事実のうち、無断使用の点は、原告が本件建物の解体・撤去工事をすべく、被告に対し、本件土地部分への立ち入り等について承諾を求めたのに、これを拒否したため、右工事ができなかったものである。また、本件建物がかなり老朽化していることは承知し、これに十分配慮したうえで被告建物の現状維持のための工事を行うものである。右のとおり、原告自ら補修工事を行うもので、その費用は原告が負担するので、被告に支払う必要はない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 土地建物の所有関係
1 証拠<証拠略>によれば、請求原因一、1の事実(但し、行政代執行がなされた点は、争いがない)が認められる。
2 請求原因一、2の事実は、当事者間に争いがない。
二 各物件の位置関係
証拠<証拠略>によれば、請求原因二の事実が認められる。
三 解体等の工事
証拠<証拠略>によれば、請求原因三の事実が認められる。
四 本件工事のための被告物件の使用等
1 <証拠略>によれば、請求原因四、1の事実が認められる。
2 右事実によれば、原告が、本件建物の解体・撤去に伴って行う本件工事は、本件建物と被告建物との構造上止むを得ない措置であり、また、工事の程度も必要最小限度に止められているものであって、被告所有の本件土地部分及び本件屋根部分(右屋根の瓦の一部を一時撤去することを含む)を使用することは、民法二〇九条一項本文の適用ないし類推適用により許されるものというべきである。
五 被告の応対
証拠<証拠略>によれば、請求原因五の事実が認められる。
ちなみに、被告としては、土地の買収交渉の過程で、信頼関係のできていた担当者が交替し、その後の手続がスムーズにいかず、土地収用法に基づく裁決に至ったとの思いがあり、広島地方裁判所に提起している行政事件を含めて一気に解決したいとして、本件訴訟中に高額の補償額を主張して和解に望んだが、合意に至らなかったものである。
六 結論
以上によれば、原告は、被告に対し、本件三土地の所有権に基づき、本件工事を行うにつき、本件土地部分及び本件屋根部分を使用することの承諾を求めることができ、また、右工事を妨害する被告の行為の禁止を求め得るものというべきであり、原告の請求は、いずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本昭彦)
第一物件目録
一 所在 広島県三原市西野町二七五一番地五
家屋番号 一二七番
種類 居宅
構造 木造瓦葺平家建
床面積 一九・八三平方メートル
二 所在 広島県三原市西野町二七五一番地四
家屋番号 一二六番
種類 居宅
構造 木造瓦葺平家建
床面積 一九・八三平方メートル
第二物件目録
一 所在 広島県三原市西野町
地番 二七五一番四
地目 宅地
地積 四一・三二平方メートル
二 所在 広島県三原市西野町
地番 二七五一番五
地目 宅地
地積 一三・三一平方メートル
三 所在 広島県三原市西野町
地番 二七五一番八
地目 宅地
地積 二六・三四平方メートル
工事の概要
〔工事方法〕
一 別紙工事方法図面一の<1><2><3><4><5><6>及び<1>の各点を順次直線で結んだ範囲の建物について、被告建物のうち、同図面の<9><10><11><12><13><15><14><6><5>及び<9>の各点を順次直線で結んだ範囲の屋根の部分を使用し、同図面<9><10><13><15><14><6><5>及び<9>の各点を順次直線で結んだ範囲の屋根瓦をはいだ後、同図面の<5><6>の各点を直線で結んだ本件建物と被告建物の接合部分を切断し、解体・撤去を行う。
二 右解体・撤去工事後の被告建物について、別紙工事方法図面一の<8><9><10><13><15><16>及び<8>の各点を順次直線で結んだ範囲の屋根及び樋の補修並びに同図面二「D側立面図」記載の<1><2><3><4><5>及び<1>の各点を順次直線で結んだ範囲の壁の補修を行う。
〔工事日程及び内容〕
一 第一日目
1 本件建物が市道に面していることから、本件建物の解体・撤去及び被告建物の補修工事期間中第三者が右工事の区域に立ち入らないようにするために、市道側にフェンスバリケードを設置し、本件建物の解体・撤去工事のための重機を本件三土地の西方の原告所有地より搬入する。
2 本件建物と被告建物との縁切り(切断)に先立って、右切断作業に支障となる別紙工事方法図面一の<9><10><13><15><14><6><5>及び<9>の各点を順次直線で結んだ範囲の被告建物の屋根瓦をはぎ、同図面の<10><11><12><13>及び<10>の各点を順次直線で結んだ範囲の被告建物の屋根部分に仮置きする(別紙工事方法図面三「軒先現況断面図」参照)。また、同時に、別紙工事方法図面一の<8><9><5><6><14><7><16>及び<8>の各点を順次直線で結んだ範囲の本件建物の屋根瓦を撤去する。
3 別紙工事方法図面一の<15><16>及び<8>の各点を順次直線で結んだ線上の本件建物の屋根の野地板をチェーンソーを使用して切断し、その後に、同図面の<5>及び<6>の各点を直線で結んだ線上の本件建物と被告建物の母屋桁の切断を行い、油圧ショベルカー等により本件建物の解体・撤去を行う。
4 右作業終了後、翌日に行う被告建物の屋根補修までの間、被告建物の屋根を保護するため、別紙工事方法図面一の<11>と<12>の各点を直接で結んだ線から野地板の切断面までの間に養生シートをかぶせる(別紙工事方法図面三「軒先現況断面図」参照)。
二 第二日目
本件建物の解体・撤去に伴い、本件建物と接していた部分の被告建物の屋根及び壁等の補修工事を行う必要があることから、足場を組み、別紙工事方法図面二「D側立面図」記載の<1><2><3><4><5>及び<1>の各点を順次直線で結んだ範囲の壁にラス板張りを行うとともに、屋根の軒先補修を行う。
三 第三日目
第一日目に一時撤去した被告建物の屋根瓦を再使用して屋根瓦を葺き替える。また、壁に関しては、ラス張りを行い、その上に下地モルタルを塗る。
四 第四日目
右壁につき、モルタル刷毛引仕上げを行う。
五 第五日目
樋の補修を行うとともに、足場及びフェンスバリケードを撤去する。
(以上のとおり、本件建物の解体・撤去及び被告建物の補修工事に要する期間は五日間の予定であるが、雨天等による工事の遅延を考慮し、予備日として一日を確保し、六日間の工期で右工事を実施する予定である。)
別紙図面一<省略>
別紙図面二<省略>
別紙図面三<省略>
別紙図面四<省略>
別紙工事方法図面 一<省略>
別紙工事方法図面 二<省略>
別紙工事方法図面 三<省略>